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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(ク)132号 決定

岡山県浅口郡船穂町大字船穂二六三五番地

抗告人

小野寧次郎

右代理人弁護士

池田〓吾

右抗告人は広島高等裁判所昭和二五年(ラ)第九号裁判官忌避申立事件の却下決定に対する抗告につき、同裁判所が昭和二五年一〇月三一日なした抗告棄却の決定に対し更に抗告の申立をしたので当裁判所は裁判官全員の一致で次のとおり決定する。

主文

本件特別抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由について。

所論認諾調書の効力を否定したからといつて、その判断の法律上の当否は格別それが直ちに裁判官の公正を妨ぐべき事情あるものということはできない。しかのみならず、所論戸籍抹消請求事件において裁判長判事三宅芳郎のした認諾の効力を否定した裁判が仮りに誤りであつたとしても、単にそれだけの理由で別件であり且つ右認諾の効力と何等かの関連あることの主張の少しも認められない本件遺産処分同意の取消等請求事件を審判するにつき当然同判事に裁判の公正を妨げる事情がある場合に該当するといえないこと多言を要しない。その他所論は、本件につき同判事に裁判の公正を妨げる事情あることの主張も疏明もないのであるから、適法な特別抗告理由として採ることはできない。

よつて、本件抗告は不適法として却下し、抗告費用は抗告人の負担とすべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

昭和二五年(ク)第一三二号

抗告人 小野寧次郎

右代理人弁護士池田〓吾の再抗告理由

一、原告高坂浪子、被告高坂穏間の広島地方裁判所三次支部昭和二十三年(ワ)第一三号戸籍抹消請求事件及び原告高坂浪子被告目瀬恒同広戸武吉間の岡山地方裁判所津山支部昭和二十四年(ワ)第一二六号親族会決議確認事件等の確定判決と同一の効力ある各認諾調書正本は民事訴訟法第二百三条に拠つて為されたものであつて日本国憲法第七十六条保障の裁判所が其の司法権によつて作成したのであるそして日本国憲法及法律にのみ拘束されその良心に従い独立してその職権を行う裁判官によつて為されたのである。

而して抗告人の私法上の権利法律関係は確認せられ確定不動となつて明確となり危険を除去せられたのである茲に於て日本国民たる抗告人の享有する自由及び権利は公共の福祉に反しないように司法権裁判官によつて保障せられたのである

然るに確定判決と同一の効力ある右二箇の認諾証書正本を他の裁判官が否認すると言うことは憲法違反であり職権の濫用である斯かる違憲違法の行為を「法律上の見解」だなどと合法化せる原審は洵に違憲違法と断ぜざるを得ないのであります

二、民事訴訟法第二百三条の認諾調書記載の「確定判決と同一の効力を有す」とは覊束力形式的確定力、既判力、執行力等総てに亘り確定判決と同一だということ論を俟たない、そして確定判決とは形式的確定力を生じたる判決を指称し形式的確定力とは判決が上訴に依り取消又は変更すること能わざるに至りたる効力を言うのであり、又既判力と言うは確定判決に因り確定したる訴訟物たる私法上の権利関係の確定に裁判所が自ら覊束せられ他の訴訟に於て之と異りたる裁判を為し得ざる効力であつて純然たる訴訟法上の効力である、既判力は本案の終局判決に付てのみ生じ、又既判力は職権調査事項と解するを通説とする斯く確定せる効力に対して裁判官其他何人と雖も覊束せられ拘束せられるのである之を否認すると言うことは法令違背である。

三、民事訴訟法第二百三条の請求の認諾は本案判決を為し得る場合に存するものであり、訴訟成立要件並に正当なる当事者たるの要件及び其の訴にして権利保護の利益を必要とするものに付ては其の利益存することを要するのである、而して前記本件二箇の請求の認諾は斯かる要件確認の利益等存するが故に夫々請求の認諾を調書に記載せられ確定判決と同一の効力を有するのである。

然るに之を専恣にも「確認の利益がない」などと言うことは許すべからざることである三宅裁判官は学識経験に富みたる人として常識上は勿論法規並びに経験の法則に従えば到底「認諾の対象となつた請求が確認の利益を欠き」などと判断し得ざるに拘らず斯る判断を為しておる法令違背がある

四、民事訴訟法は日本国憲法保障のもと国民の自由及び権利の伸長にその基調を置き徹底したる弁論主義当事者主義である職権に因る証拠調の規定たりし第二百六十一条も削除せられた、斯かる主義による第二百三条は弁論主義の重要なる規定とする弁論主義を徹底することによりてのみ訴訟の促進も計り得るのである。

斯くて為されし右二箇の認諾調書を否認することは恰も民事訴訟の民主化の逆行であり違憲である。

五、原審が「確認の利益を欠く」と説示して同調しておるが、

元来職権調査事項ではなく争点の問題である「確認を求むる法律上の利益」と言うことは即ち私法上の権利又は法律関係が不明確であつて判決に依り之を除去することを必要とする程度の危険を感じ而かも判決に依り之を除去し得べき場合なることを言うのである、唯単に三宅判事が「請求が確認の利益を欠く」と言うたからとて之は其の根拠不明であるのみならず争点に付判断を遺脱し如何なる証拠に依つて斯る事実を認定したものであるか全く不明であつて判決に理由を附せず理由に齟齬ある法令違背と断ぜざるを得ないのである。

叙上の次第であつて三宅判事が他の裁判所に於て為せる確定判決と同一の効力ある認諾調書正本を専恣違憲にも之を否定すると言うことは右審理中の事件に付いて三宅判事に付裁判の公正を妨ぐべき事情に該当するものと信ずる、原裁判所は民事訴訟法第二百三条の解釈を誤られ三宅判事の違憲違法の行為に同調せるものと思料し本件再抗告に及ぶ次第であります。

以上

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